REPORT

2010年12月4日  三郷市文化会館  文:兼田達矢  写真:西澤祐介

ツアー初日というのは、何かと落ち着かないものだ。

例えば客席に身を置いてみると、方々で「久しぶり~」と言い交わしている人たちがいる。なんだか同窓会が始まる前みたいな雰囲気だ。「○○先生ってずいぶん太っちゃったらいしいわよ」「△△くん、来るかしら?」みたいな期待と不安が入り混じった、でもやはり期待のほうが大きい、浮き立つ気持ちを抱えて人々が集まってきて、幸福な“予感”が会場を満たすことになる。最近は、油断しているとインターネットにライブの模様を知らせる書き込みがあったりするから、完全な意味での“予感”に会場が満たされるのは初日だけなのだ。

アーティストもまた“予感”を頭の中で転がしながら会場にやって来る。もちろん、“絶対いいステージになる!”という強い思いは持っていても、キャリアを積んでいればいるほど、ライブばかりはやってみないとわからないものということが骨身にしみているから、その強い思いはあくまでも“予感”であって確信ではない。

ツアー初日の落ち着かなさというのは、おそらくはそんなふうにいろんな“予感”が交錯することで生じる独特のざわめきのせいで、そのざわめきを快感と感じる人は少なくない。Chage言うところの“初日マニア”という人たちである。もっとも、他でもないChage自身が“初日マニア”の一人なのではないか。彼がツアーに出る理由のひとつはツアー初日のその独特のざわめきを感じたいからなんじゃないかと勝手に想像しているのだけれど、だからこそ例えばこの日はそのざわめきに身を浸していたらジャケットを脱ぐ段取りを間違えたりするわけである(笑)。黙っていればオーディエンスにはわからないその事実を彼自身が暴露してしまうのは多分“初日マニア”的共感のゆえであり、「もう2日目からは間違えないから。今日だけ。あなたたち、ひとつトクしたね」と言って、にっこり笑う。“初日マニア”Chageはツアー初日を楽しんでいるのだなと感じた瞬間だ。

ただ、楽しんでいるとは言っても、自宅の居間でテレビゲームを楽しんでいるのとはもちろん違っていて、“予感”を確信に変えるためのギリギリの戦いがステージ上で繰り広げられていく。この日のMCでも語られた通り、今回のツアーは先にリリースされたアルバム『&C』のレコーディングから続くひと連なりのプロジェクトとして固定したバンド・メンバーで演奏が展開される。そのバンドにChageは「チャゲトルズ」という名前をつけ、それは敬愛するビートルズをもじったものだと説明してくれたのだけれど、この日のステージを見ているとその命名がなかなかに意味深いものだと思えた。というのも、ビートルズとはメンバー4人全員がそれぞれに明確な個性を持ちリード・ボーカルも担当するという形で「バンド」という新しい集団の有り様を世の中に知らしめた存在であるわけで、この日のステージのベクトルが向いた先もまさにそのビートルズ革命と方向を同じにしているように思えたからだ。つまり、この日のステージはバックバンドに支えられたChageにひと筋のピンスポットが当てられるというような単純なものではなく、チャゲトルズという多面体にいろいろな方向から光を当てることで、ちょうどミラーボールが光を乱反射させるように予想もしない光線が行き交い、その複雑な光線を浴びてChage自身もまた新しい輝きを放つという試みだったということだ。だから、この日会場に集まった人たちは確かに「ひとつトクした」かもしれないが、すべてを見たわけではない。なにせメンバーが放つ光は乱反射するのだから。

最後に、Chageは「ツアーに行ってきます!」と力強く宣言した。それは、“予感”が確信に変わったからか? あるいは新しい“予感”を抱いたからか? その答が出るのは2011年1月30日、渋谷C.C.Lemonホールである。